たった3µLの血液から、免疫の「今」を捉える。
フォトフィルは、自然免疫を担う好中球に着目し、その活性状態を光で捉える技術を開発しています。
好中球が刺激に応答して産生する活性酸素を、化学発光と蛍光によって検出・数値化。わずかな血液から、好中球がどのように反応しているかを評価します。
活性酸素生成の仕組み
好中球は、病原体などの侵入に対していち早く働く自然免疫細胞です。病原体などを排除するために、酸素からスーパーオキシド(O₂⁻•)を産生します。さらに、好中球の顆粒から放出されるミエロペルオキシダーゼ(MPO)という酵素が関わる反応によって、次亜塩素酸(HOCl)や次亜臭素酸(HOBr)などの活性酸素種が生じます。
これらは生体防御に重要な役割を果たす一方、正常な組織にも影響を及ぼし、炎症や酸化ストレスにつながります。
こうした好中球の働きが関わる急性炎症は、病原体などを排除するための生体防御反応です。通常、生体には炎症を収束させ、組織を修復・治癒へと導く仕組みが備わっています。しかし、好中球が過剰に活性化したり、炎症が長く続いたりすると、組織へのダメージが蓄積し、慢性炎症につながることがあります。
フォトフィルは、好中球が産生する活性酸素に着目し、その働きを光によって捉える技術を開発してきました。
微量の血液から測定する光学系

この技術の大きな特長は、わずか3 µLの血液を希釈するだけで測定できることです。
着色性のある試料溶液中でも微弱な光を検出できるよう、光学系や試料の取り扱いにも工夫を施しています。
• 短い光路長:試料を入れる容器を薄型にし、光路長を短くしています。
• 励起と検出を同じ側に配置:試料の同じ側から励起光を照射し、発生する光を検出します。
• 高感度な光検出:微弱な光を捉えるため、高感度な光電子増倍管(PMT)を採用しています。
• 蛍光と化学発光を同一検出器で測定:1つの検出器で、蛍光(FL)と化学発光(CL)を分けて検出します。
• 常時攪拌による試料の均一化:測定中も試料を常時攪拌し、均一性を保ちます。
これらの工夫により、着色性のある試料溶液から、好中球の活性に関わる2つの光信号を測定します。

好中球活性をどう測るか
好中球を刺激して活性酸素を産生させ、その際に生じる光を検出します。スーパーオキシド(O₂⁻•)の産生を化学発光で、MPO活性に関わる次亜塩素酸イオン(OCl⁻)の産生を蛍光で捉え、それぞれの信号の変化を専用解析ソフトで数値化します。

血液試料に最適化したシステム一式
色や濁りのある血液試料の測定に対応した、専用計測容器と光学ユニットを組み込んだ蛍光・発光同時計測装置です。


図4.好中球活性評価ラボ用システム(理化学機器)
本システムは2試料を同時に計測できるため、再現性の確認やリファレンスとの比較計測も可能です。
図5は、同一血液試料から、4つの計測試料を調製、4チャネル同時に計測した結果です。4チャネル間の誤差はそれぞれ、CL:2.62 %、FL:1.74 % (Kazumura et al.,Sci Rep. 2021)であり、高い再現性・安定性が確保されていることがわかります。

阻害剤による信号の検証
図6、図7は、O2-・の消去剤であるSOD (Superoxide Dismutase)とMPOの特異的阻害剤4-ABAH (4-Aminobenzoic Acid Hydrazide)を共存させた同時計測結果です。目的としているO2-・産生とOCl⁻産生が検出できていることが確認されています。


研究例
~基準範囲との比較から見える好中球活性の違い~
7,000例以上の健診データから構築した基準範囲と各疾患群との比較

これまでに、ラボ用システムを用いて、健常者やさまざまな疾患を対象とした臨床研究を実施してきました。
7,000例以上の健診受診者データをもとに、好中球活性の基準範囲を算出しています。(Scientific Reports 2026)。
健常者では、平常時の測定値は基準範囲内に収まる一方、風邪による発熱時には基準範囲の上限近くまで上昇し、激しい運動の後には上限をやや上回ることが確認されています(Scientific Reports, 2021)。
慢性炎症疾患である膿疱性乾癬の患者では、治療前に高値を示していた好中球活性が、治療後に寛解した場合には基準範囲内まで低下する一方、寛解に至らなかった場合には低下の度合いが小さいことが報告されています(Ther. Apher. Dial. 2025)。これらの結果は、好中球活性評価が炎症状態や疾患活動性の変化を反映する可能性を示しています。
また、予備検討では、敗血症や播種性血管内凝固(DIC)などの急性疾患患者において、さらに高い好中球活性を示す例も確認されています。一方、生後7日以内の新生児では、成人の基準範囲より高い好中球活性を示すことが報告されています(Front. Pediatr. 2025)。
これらの研究を通じて、本評価技術が健常者の軽微な体調変化や、健常者と炎症性疾患患者との違いを明確に識別できる可能性が示されています。
研究例1
~7000例以上のデータを収集・検査や生活習慣などとの関連性の解明~
大規模横断・縦断研究
生化学検査や生活習慣、疾患、加齢などとの関連性の解明と基準範囲設定を目的とした大規模 (7000例以上)横断・縦断研究を、浜松ホトニクス株式会社、 (一般財団法人)浜松光医学財団 浜松PET診断センターと東京慈恵会医科大学との共同研究で実施しています。
実施スケジュール


2020年2月より開始し、2022年3月末までに蓄積した約3000例を用いて中間評価を行い、暫定基準範囲を設定しました。(Shinke and Hattori et al.,J Clin Biochem Nutr. 2024)
<最終評価> (Takeuchi et al., Sci, Rep. 2026 図9~11は、当該論文を改変)
最終的に収集できた7263例のデータから、基準集団となる正常な被検者 の抽出を既往歴、服薬情報、画像検査結果に基づいて行いました 。
さらに潜在的な炎症過程とみなした、全身FDG/PETにおける炎症性FDG取り込みやX線CTにおける血管石灰化が見られた例、内臓脂肪100 cm2以上の方、中間評価で好中球活性に影響を及ぼすことが確認されたコロナワクチン接種者、及び喫煙者を除外しました。この中に同一被験者がいた場合は、受診日の早いデータのみ使用しました。その結果、進行中の病歴や炎症のない329人の正常な被験者を抽出し、基準集団としました。
最終評価では、従来のスーパーオキシドおよび次亜塩素酸イオンの産生量に加え、単位好中球当たりの産生量や、光信号のピーク立上りに関連する時間指標なども評価対象としています。
これにより、単一の測定値だけでなく、複数の指標から好中球の活性状態を評価するための基盤を構築しています。



現在、画像情報、生化学検査や生活習慣、疾患、加齢などとの関連性についての解析、繰り返し受診者の症例による縦断的変化の解析も同共同研究で行っています。
研究例2
~平常時の安定性や反応の俊敏性、早期の異常検出を確認~
健常者縦断研究 (パイロットスタディ)
(Kazumura et al.,Sci Rep. 2021)
健常被験者8名 (30代、40代、50代、60代男女各1名)を対象に数ヶ月繰り返し計測を行いました。
採血時にその日の体調などをヒアリングします。その際、特に変わったことはないと回答した日を平常時とし、平常時の各値の平均値とそのバラつき (CV)を、%で示しています (図12、13、14)。平常時のバラつきは、O2-・産生、OCl-産生ともに、好中球数と同程度で安定しており、何か身体にイベントがあった時に、そのバラつき範囲を超えて大きな変動として検出できることがわかりました。
30代女性の場合、花粉症の症状が出始めた頃から特にOCl-産生が上昇していますが、咳喘息と診断を受け、処方薬を服用したことで値が改善しています (図12)。30代男性の場合、78日目に前日の約3倍の高い値が観察されました (図13)。ヒアリング時、喉の痛みはあるが、発熱はないとの回答でしたが、その後悪化したことにより、のど風邪と診断され、抗生物質を処方されました。発熱もありましたが、服薬により翌日には回復、好中球活性も低下しております。いずれもCRPよりも早い異常検出ができています。
図14は、30代女性のO2-・産生、OCl-産生を、その時の好中球数で割った値をプロットしたものです。つまり、好中球の質=活性酸素産生能力を表しています。OCl-産生能力は、炎症に関連することが示唆される結果となっています。

研究例3
~食後一過性酸化ストレスの負担軽減へ~
脂肪負荷試験
(Takeuchi and Kazumura et al.,J Clin Biochem Nutr. 2024)
健常若年女性8名を対象に、脂肪負荷による食後一過性酸化ストレスの評価を行いました。12時間絶食状態で、試験食のOFTTクリーム (脂肪0.35 g/kg)を含む飲料を摂取し、0、0.5、1、2、4、6時間後に血液サンプルを採取、好中球活性を計測しました。好中球活性測定と同じ時点で、血中の酸化ストレスマーカと血液生化学マーカも計測しており、トリグリセリドは摂取後4時間でピークに達し、6時間でほぼベースラインに戻るという過去の報告と一致した結果を得ています。
O2-・産生とOCl-産生は、ともにトリグリセリドより早く上昇し、O2-・産生は摂取後2時間でピークに達しました (図15、p<0.05)。OCl-産生は摂取後1時間で有意に増加し (p<0.05)、摂取後2時間でピークに達しました (図16、p<0.01)。これらの結果により、食後の酸化状態を捉える初期マーカとしての有用性が示唆されました。
血液使用量が最小限に抑えられる本システムでは、短時間で複数タイムポイントのサンプリングが必要な研究において、被検者や作業者の負担軽減に有利であり、急性酸化ストレス分野の研究の加速に貢献が期待されます。


研究例4
~好中球数だけでは反映できない情報を検出~
体調不良のアカゲザルの計測
(數村, COSMETIC STAGE. 2021)
(Takeuchi, et al., J Clin Biochem Nutr. 2025)
アカゲザルの異常個体 (10日以上体調不良)と健康個体とを比較計測しました。
異常個体では、CRPが5.4 mg/dLと極端に高値を示しており、重度な炎症疾患に罹患していることが疑われました。一方、好中球数は0.67×103 cells/μLと、健康個体と比較して一桁少なくなっており、好中球生産能力が失われていると考えられました。
本システムで得られた結果は、O2-・産生は好中球数と連動して低値を示したのに対し、OCl⁻産生は健康個体と比較して3倍以上の顕著に高い値を示しました。本個体は、安楽死後の解剖により、敗血症の疑いと診断されました。これらの結果より、OCl⁻産生は炎症状態を反映すると考えられ、好中球数だけでは知りえない情報が、本システムで得られる可能性が確認されました。


その他完了した臨床研究
2型糖尿病モデルラットで糖尿病の発症経過観察(Takeuchi et al., immunobiol. 2026)
→糖尿病の病態進行を好中球活性で評価できる可能性を確認
・離乳子豚による5-ALA含有飼料の介入研究(Ishikawa et al., Vet World. 2026)
→5-ALA給与による免疫状態の変化を好中球活性で評価(摂南大、香川大、栄養病理学研究所、ネオファーマジャパンと共同で実施)
・新生児の評価に導入(20症例)Iijima et al., Front Pediatr. 2025)
→生後4日目の20症例(早産児13名、正期産児7名)では成人より若干高めであることを確認(千葉大学医学部附属病院 小児科・周産母子センターと共同で実施)
・膿疱性乾癬に対する顆粒球吸着除去療法前後の好中球活性評価 (2症例) (Higashi et al., Ther Apher Dial. 2025)
→患者は健常者と比較して桁違いに高値・治療効果を反映できることを確認 (鹿児島大大学院医歯学総合研究科 感覚器病学 皮膚科学と共同で実施)
・動脈硬化患者カテーテル治療前後比較試験 (30症例) (Takeuchi et al., Adv. Redox Res.2025)
→O2•-が、EVT直後に有意に増加=EVTに伴う虚血再灌流の影響を示唆 (中津川市民病院と共同で実施)
・ハトムギの二重盲検並行群間比較試験 (120名) (Oya et al.,J Nutr Sci Vitaminol. 2024 70(3):280-287)
→小山市、ヘルスケアシステムズと共同で実施
・大豆ペプチド粉末飲料が運動(試合)後の免疫機能および翌日の自覚的疲労度に及ぼす影響 (九共大研究紀要 2024)
→九州女子大、九州共立大で実施
• 動脈硬化患者カテーテル治療効果1ヶ月モニタ試験 (30症例) (Takeuchi et al.,J Clin Biochem Nutr. 2023)
→OCl-/O2•-がEVT後に有意に減少することを確認 (中津川市民病院と共同で実施)
• 健常者3名による原理検証、食事前後比較等 (Kazumura et al.,PLOS ONE. 2018)
→好中球数との相関、阻害剤による検証などから、好中球活性が評価できることを確認
• 動脈硬化モデルマウスでLPSによる発症抑制効果の検証 (Kobayashi et al.,PLOS ONE. 2018)
→香川大学医学部と共同で実施
• アルツハイマー症モデルマウスでLPSによる発症抑制効果の検証 (Kobayashi et al.,PLOS ONE. 2018)
→香川大学医学部と共同で実施
• 高血圧モデルラットで高血圧と脂質代謝異常の発症経過観察 (Zhang et al.,Anticancer Res. 2018)
→自然免疫制御技術研究組合と共同で実施
将来展望
現在、フォトフィルでは、医療現場や在宅環境でも利用できるPOCT(Point of Care Testing)システムの開発に取り組んでいます。

血液(3 µL)と試薬キットを装置にセットするだけで、解凍・添加・反応・計測・解析までが自動で進むよう設計されています。
開発中のシステムでは、必要な試薬をあらかじめ組み込んだ専用計測キットを使用し、血液を加えるだけで測定から解析までを自動で実施できることを目指しています。
ユーザーは試薬入り計測容器を冷凍のままセットし、検体をチップに保持するだけで、解凍、試料添加、測定開始、刺激剤添加、解析、評価までの一連の工程を自動で実施できる構成を検討しています。
また、2検体を独立して測定できる構成とし、ラボ用システムで必要だった外部PCを用いず、装置単体で測定から評価までを実施できるよう開発を進めています。
将来的には、本技術を医療機器および体外診断用医薬品として展開し、炎症状態や免疫状態の評価を医療現場で活用できることを目標としています。
このPOCTシステムにより期待される応用展開
微量|簡便|迅速|定量
繰り返し測定による、手軽な免疫状態モニタリング

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